夏目漱石 白雲の吟

眞蹤寂莫杳難尋
欲抱虚懷歩古今
碧水碧山何有我
蓋天蓋地是無心
依稀暮色月離草
錯落秋聲風在林
眼耳雙忘身亦失
空中獨唱白雲吟
眞蹤(しんしょう)は 寂莫として杳(よう)として尋ね難く
虚懷を抱かんと欲して 古今を歩む
碧水碧山 何ぞ我れ有らん
蓋天蓋地 是れ無心
依稀(いき)たる暮色 月は草を離れ
錯落(さくらく)たる秋聲 風は林に在り
眼耳 雙(ふた)つながら 忘れ 身亦た失はれ
空中に 獨り唱す 白雲の吟を

秋下荊門 李白


霜落荊門江樹空
布帆無恙挂秋風
此行不為鱸魚鱠
自愛名山入剡中

秋 荊門を下る 李白
霜は荊門に落ちて江樹(こうじゅ)空し
布帆(ふはん)恙無(つつがな)く秋風(しゅうふう)に掛く
此行(このこう)鱸魚(ろぎょ)の鱠(かい なます)の為ならず
自ら名山を愛して剡中(せんちゅう)に入る