夏目漱石 白雲の吟

眞蹤寂莫杳難尋
欲抱虚懷歩古今
碧水碧山何有我
蓋天蓋地是無心
依稀暮色月離草
錯落秋聲風在林
眼耳雙忘身亦失
空中獨唱白雲吟
眞蹤(しんしょう)は 寂莫として杳(よう)として尋ね難く
虚懷を抱かんと欲して 古今を歩む
碧水碧山 何ぞ我れ有らん
蓋天蓋地 是れ無心
依稀(いき)たる暮色 月は草を離れ
錯落(さくらく)たる秋聲 風は林に在り
眼耳 雙(ふた)つながら 忘れ 身亦た失はれ
空中に 獨り唱す 白雲の吟を